北海道の先天性心疾患外科治療の殆どを北海道大学病院ならびにその関連施設で行っています。小さなお子さんは成人に比べて安全域が小さいため、心臓手術などの高度な治療の際には成人よりもさらに慎重な対応が必要になります。我々は、小児科や循環器内科、麻酔科や看護師・技師など、本疾患の治療になれたメディカルスタッフによるチーム医療を行い万全の体制を整えています。ここ数十年の医学の進歩にともない外科治療の成績は著しく向上し、元気に成人期を迎える患者さんが増えてきました。
心房中隔欠損症・心室中隔欠損症
心房中隔(右心房と左心房の間の壁)や心房中隔(右心室と左心室の間の壁)に孔があり、血液が交通(シャント)して心臓に負荷がかかる病気に対して孔を塞ぐ手術を行っています。
心房中隔欠損症:病状や体重などを考慮したうえで可能な場合には、前から傷が見えにくい右後側方開胸(右の肩甲骨周りを7〜12cm切開)での手術や、無輸血手術を積極的に行っています。
心室中隔欠損症:孔が自然閉鎖する場合もありますが、症状(呼吸が早くて荒い、ミルクがたくさん飲めない、体重が増えない等)が強い場合や大動脈弁閉鎖不全が生じた場合には手術が必要です。可能な限り小さい創で手術を行っています。
複雑心奇形(ファロー四徴症、房室中隔欠損症など)
ファロー四徴症、房室中隔欠損症、両大血管右室起始症などの複雑心奇形に対する手術を行っています。個々の病状に合わせて手術時期を決定していますが、新生児期・乳児早期に体の血流と肺の血流のバランスを調整するための手術(姑息術)を行い、乳児後期から2-3歳くらいまでの間に人工心肺を用いた根治術(心内修復術)を行う場合もあります。ファロー四徴症では積極的に自己肺動脈弁を温存する手術を工夫しています。
新生児開心術
完全大血管転位症や総肺静脈還流異常症、大動脈縮窄複合といった複雑心奇形の一部は、救命のため新生時期に手術を行う必要があります。病状によっては、人工心肺を用いて心臓を止めた状態での手術など、より複雑な手術が必要になる場合があります。
機能的単心室に対する手術
単心室症は、本来左右の2つに分かれている心室が1つしかない病気です。ひとつの心室から体と肺の両方に血液を送り出すため、静脈血(酸素が少ない血液)と動脈血(酸素が多い血液)が混ざった状態となり、チアノーゼ(唇や爪が青紫色になること)を呈します。このような病気に対しては、成長に合わせて段階的に手術を行い、チアノーゼのないフォンタン循環を目指します。新生児期・乳児早期には肺の血流を制御して成長を促す手術(肺動脈絞扼術や体肺動脈短絡手術)を行い、月齢2〜6ヶ月に上半身の血液のみ肺に流れるようにして心臓の負担を減らすグレン手術を行います。1-3歳に下半身の血液も肺に流れるようにするフォンタン手術を行います。複雑心奇形を合併する場合には、ノーウッド手術などの難しい手術が必要になりますが、こうした手術も以前に比べてより安全に行えるようになってきました。
成人先天性心疾患
複雑心奇形を持つ先天性心疾患の患者さんは、小児期に手術を行ったかにかかわらず大人になってから治療や手術が必要になる場合があります。北海道大学病院は、こうした成人先天性心疾患の総合修練施設(基幹施設)に道内で唯一認定されている施設であり、小児科や循環器内科、消化器内科と連携して診療にあたっています。