研究部門について
ABOUT THE RESEARCH DIVISION

研究内容

 1990年の循環器外科創設(安田慶秀教授)以後、主に大血管疾患に関連する基礎的・臨床的研究を行ってきました。選択的脳灌流法による弓部大動脈瘤手術、粥腫を有する症例に対するisolation法の確立、胸腹部大動脈瘤手術における脊髄誘発電位モニターを用いた脊髄障害予防法などを研究開発してきました。2006年以降は(松居喜郎教授)、主に重症心不全に対する外科治療(左室形成術、機能的僧帽弁逆流に対する乳頭筋接合術)、僧帽弁形成時の人工腱索再建におけるmeasured tube法などの基礎的・臨床的研究を行ってきました。

これまでの主な研究テーマ

1998年
人心筋虚血モデルにおけるノルエピネフリン放出
モルモット単離心房筋細胞を用いたヒスタミンH1受容体刺激によるCa2+動態
1999年
遊離広背筋電気刺激による新しい代用心筋法
長期呼吸循環補助を目的とした小型人工心肺システム
酸素加血液を用いた18時間肺保存
ブタLVAD装着モデルにおける腎臓、腸管、全身の代謝性変化
2000年
ラザロイドは虚血後脊髄障害におけるインターロイキン受容体拮抗体の生成を抑制
ヒト心筋虚血モデルにおけるアンギオテンシンによるノルエピネフリン放出機序
異種心臓移植における超急性拒絶心臓の微細構造
2001年
ニコランジルの脊髄虚血に対する保護効果
橈骨動脈におけるSarpogrelate Hydrochlorideの収縮抑制効果
2002年
モルモット単離心臓モデルの虚血再灌流におけるノルエピネフリン放出と不整脈
異種心臓移植におけるCTLA4Ig遺伝子導入の効果
2003年
ヒスタミンH3受容体ノックアウトマウスの虚血心からのノルエピネフリン放出
ウサギ脊髄虚血再灌流モデルにおけるカルシニューリン阻害薬の神経細胞保護効果
高度血液希釈人工心肺手術モデルにおけるパーフルオロケミカルによる酸素供給
非虚血性拡張型心筋症に対する新しい術式の実験研究
ウサギ脊髄虚血再灌流モデルにおける虚血プレコンディショニングの保護効果
プロスタグランディンE1による自家静脈グラフト内膜肥厚の抑制
シクロスポリン連日投与および15-デオキシスパーガリン投与による異種心臓移植
犬の門脈へのステント留置後のアポトーシス誘導
2004年
糖尿病ラット摘出新におけるL-カルニチンの虚血再灌流障害抑制効果
内因性エンドセリン1の心臓虚血再灌流におけるノルエピネフリン放出と不整脈
Perindoprilによる犬静脈グラフトにおける新生内膜過形成の抑制
2006年
ウサギ脊髄虚血再灌流モデルにおけるastrocyte活性化と遅発性運動神経細胞死
連続wavelet変換による二葉機械弁機能不全の診断
2009年
慢性大動脈解離における左室拡張機能障害
重症左心不全患者に対する左室形成術の心筋酸素代謝効率からみた治療効果
2013年
閉鎖チャンバー式静脈血リザーバを併用した経皮的心肺補助装置の左室前負荷軽減
2017年
CTを用いた局所心内膜変形の定量解析
虚血性心筋症における左室形成術の左室壁応力・心筋リモデリングに対する効果
2018年
先天性心疾患における血流動態と自己心膜で再建された肺動脈変性の関連
2019年
熱可塑性人工弁輪の臨床応用に関する研究
2020年
北大関連病院データベースを用いた腹部大動脈瘤破裂の検討
虚血性心筋症ラットにおける左室形成術後の心筋リモデリングとオートファジー
薬剤的心筋プレコンディショニングによる虚血再灌流障害の予防
2021年
冬眠動物や植物から学ぶ新たな心臓冷却保存法の開発
人工知能(AI)を用いた術後合併症予測モデルの構築
機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋タギングと術後左室リバースリモデリング

 現在、当教室研究部門では心筋オートファジーに注目し、重症心不全に対する外科治療(左室形成術)の適応拡大を目指した基礎的研究、心臓手術や心臓移植時の心筋保護に関する基礎的研究をおこなっております。臨床では心臓手術後に多い合併症である心房細動という不整脈の予防に関する介入研究などをおこなっております。

1.左室形成術とオートファジー

近年、心不全の分子生物学的マーカーとして、「オートファジー(自食作用)」が注目されています。オートファジーとは大規模な細胞内分解システムで、不要になった細胞質成分をオートファゴゾームの形成を経て、最終的にリソソームで分解する細胞プロセスのことをいいます。心筋梗塞後の心筋オートファジーには、過剰な壁応力や低酸素に直面した心筋細胞にアミノ酸や脂肪酸などのエネルギー源を供給するというポジティブな働きがあるとされています。しかし、外科的介入後の心筋オートファジーは不明でした。私たちはラットの左室形成術モデルを用いたオートファジーに関する研究を行い、これまでにオートファジーが左室形成術後の左室再拡大に重要な役割を果たしていることをあきらかにしました(Sugimoto S, et al. JTCVS 2020)。今後、オートファジー活性化剤を使用した治療法を確立できれば、左室形成術の恩恵を受ける患者さんを増やせる可能性があると考えています。

2.オートファジー活性化による新たな心筋保護法・臓器保存法の開発

 心臓手術における心筋全虚血後の再灌流障害は予後に影響するため依然としておおきな課題となっています。オートファジーには飢餓時に細胞内エネルギーを保持する役割があり、心臓の虚血時にも必要とされています。当教室ではオートファジー活性化作用があることが知られているさまざまな天然物質をもちいた虚血再灌流障害の予防の研究をおこなっています。また、同様の検討を心臓移植時の冷却心臓保存法にも応用し、より長時間の安全な臓器保存法の研究に取り組んでいます。北海道という地理的な条件から、国内であっても4時間以上臓器搬送に時間のかかる遠方からのドナー臓器の提供をうけることができないのが現状です。非常に限られた移植ドナーをより有効に利用させていただく努力が重要と考えています。

3.術後心房細動「ゼロ」を目指して

 いまだに解決できていない術後合併症の一つが「発作性心房細動」です。術後発作性心房細動は脳梗塞や心不全の原因となり医療費の大きな負担となります。これまで当教室では術後心房細動の予防方法を開発するため、心房筋の代謝異常に注目し研究を行ってきました。そのなかで、心房筋の細胞内で脂肪酸輸送のはたらきをする遺伝子の発現が術後心房細動患者さんで低下していることを見出し報告してきました(Shingu, Y et al. J Cardiology 2018)。そこで、脂肪酸輸送を改善する働きのある「L-カルニチン」という体内微量成分の補充が低下した心房筋の脂肪酸輸送機能を改善し、術後心房細動を予防できるのではないかと考え、臨床研究を実施しています。

大学院など当科での研究をお考えのかたへ

 基礎的研究はおもに大学院生が中心となって専属スタッフの指導のもと取り組んでおります。断続的に研究専属の期間を設けており、集中して効率よく研究を行える環境を整えています。循環器診療をおこなう医師のみならず、当科の研究に興味のあるかたはどなたでも気軽にご連絡ください。

研究情報の公開(オプトアウト)
OPT-OUT

 通常、臨床研究を実施する際には、文書もしくは口頭で説明・同意を行い実施します。臨床研究のうち、患者さんへの侵襲や介入もなく診療記録等の情報のみを用いる研究等については、国が定めた指針に基づき「対象となる患者さん一人ずつから直接同意を得る必要はありません」が、研究の目的を含めて、研究の実施についての情報を公開し、さらに拒否の機会を保障することが必要とされております。 このような手法を「オプトアウト」と言います。オプトアウトを用いた臨床研究は下記のサイトからご確認いただけます。なお、研究への協力を希望されない場合は、文書内に記載されている各研究の担当者までお知らせください。

https://www.huhp.hokudai.ac.jp/date/rinsho-johokokai/